Q1.佐賀県嬉野市に進出した理由は?
小原 2017年に本田社長と知り合い、嬉野茶時のECサイト、WEBサイト、ムービーを制作していただいたのがご縁の始まりです。嬉野を気に入って何度も足を運んでいただくうちに、ふと「ここにうちのオフィスがあったらいいですね」とこぼれ出た本田社長のひとことが、すべての原点です。
本田 嬉野に何度も来たい!という想いが前提にあるのですが(笑)、2つの住所を持つと地域の特性も味わえて、心が豊かになります。仕事があれば来る理由になるし、経営者として次の発展にもつながる。ここにオフィスをつくろうと思ったのは、本当にシンプルな発想がきっかけでした。ちょうど以前から、県の誘致担当からも熱心な誘致プロモーションを受けていたことも理由の一つですが。
小原 今でこそコロナ禍の影響もあり、リモートワークや、ワーケーションという働き方が広まりましたが、この話があった2018年はまだワーケーションの実態もよくわからなかったころ。でも、そのタイミングでふと出た本田さんの言葉を互いに逃さずに実現へと向き合えたことはとても運がよかったし、他の人よりも半歩だけ先行できたのがよかったと思います。
Q2.嬉野で行っている事業内容は?
本田 今は7人のスタッフがいて(2021年12月9日取材時)、WEBやECサイトの制作事業を行っている傍ら、和多屋別荘にオフィス利用の企業を誘致して入居スペースをサブリースや会員制のワーケーション事業も行っています。東京などの進出企業へのアプローチやヒアリング、視察受け入れもすべて嬉野で対応しています。距離は離れていても、やりにくさはまったくありません。仕事に関するコミュニケーションは、オンラインでも十分ですが対面で会うこともとても大切なので両輪で事業を運営しております。
Q3.和多屋別荘や嬉野への効果は?
小原 イノベーションパートナーズ1社だったオフィスの入居企業が翌年には5社になり、現在も問い合わせがあとを絶ちません。またイノベーションパートナーズがハウスエージェンシーになったことで30人超のプロ広報チームの協力を得ることが可能になりました。私が何か新しく取り組むと、WEB、プレスリリースがつくられ、メディア取材へと一気に進み、反響もシナジーも数倍返ってきます。これが地方の嬉野でできる、代えがたい価値です。地域でも複数のお茶農家のWEBサイトが立ち上がり、嬉野のブランド力が底上げされました。
Q4.嬉野に進出する企業のメリットは?
本田 「温泉旅館にオフィスをつくりましょう」と言うと「おもしろいね」と応える小原社長がいることです。地域のパートナーとしっかりタッグを組めるのが、私の最大のメリットですね。進出企業のうちインフルエンサーを活用しインバウンドのプロモーションをしているENGAWA株式会社は、日本文化を知りたい外国人にとって和多屋別荘は最高のロケーションで、メディアの注目や県内の地場企業との連携が図られそうだと判断したようです。ほかの企業も進出によってシナジーを生み出そうと取り組んでいます。
Q5.佐賀県の企業立地課のサポート体制は?
本田 とても助かりました。佐賀県の企業立地課は、進出後も県内でのネットワークの構築や事業展開のお手伝いなど、しっかりサポートしてくれます。民間企業と県の描く「未来のゴール」が同じなのです。担当者も、進出時からずっと同じ人が窓口として携わってくれるのもありがたいですね。
Q6.嬉野で仕事をするうえで重視していることは?
本田 地域でしっかりコミュニティを作り上げることです。進出して最初の1カ月間は、ちょうど茶摘みのシーズンだったのでスタッフを手伝いに行かせました。机上でのパソコン作業より、シーズンの忙しさやお茶の本質を理解できる価値があったからです。
小原 現場はとても助かったのですが、同時に茶摘みの大変さを経験した人が制作するWEBやECサイトは、間違いなく響くものになります。ほかにも和多屋別荘の若手のスタッフと入居企業チームで一緒にひとつの池を掃除したり、視察対応をしたりしています。ここに居を構えているからこそ、現場をより深く知ることができる。それが、制作物にも良い影響を与えているのではと思っています。
本田 東京の企業が地域でコミュニティをつくるのは難しいのですが、嬉野では形成できているんですね。それを改めて実感したのは2021年8月に水害でオフィスが浸水したとき。茶畑や和多屋別荘の人たちが主体的に集まっていただき、自分達の大変な中にも関わらずオフィスの泥出しなど復旧の手伝いをしていただきました。
小原 イノベーションパートナーズのみなさんがお茶畑を手伝っていただいたり、地域に必要なことに積極的に関わっていただいたことだと思います。和多屋別荘のスタッフもいつも世話になっているからやっと返せると、役に立ちたい気持ちでお手伝いさせてもらいました。
本田 こうした関係性は、1〜2年のスパンで考えていては築くことができません。嬉野でこのプロジェクトを進めて成功させるためには、5年、10年と永続的にやっていくことが大切。その覚悟と、持続可能である事業、企業であることが重要だと考えています。
小原 旅館のなかにオフィスを構え、経営者が集まるサロンをつくり、地域の経済や事業を生み出す。今、佐賀県知事とはこの取組を全国に先行して行っていこうと話しています。佐賀県嬉野から“旅館とオフィスの共生”で新しい価値を発信するイメージです。
本田 業種はITにこだわりません。例えば、テナントを契約すれば契約書が必要なので、弁護士法人が入るとか。建築設計やデザイン会社も来てもらえれば、また新しいアイデアが生まれるでしょう。
小原 私としては、オフィスを10社ぐらい入れたいですね。いろいろな業種の企業が来ることで新しいシナジーが生まれ、嬉野に今までなかった産業が生まれます。それが嬉野における最大のメリットだと考えています。